2015-08-28

海街diary



是枝裕和監督「海街diary」

(※以下ネタバレ含みます)


原作の漫画は未読。
それが幸いしたようですが、すごく良かったです。

鎌倉の街並み、そして四季の移ろいが、これでもかというぐらいに美しい。
邦画の場合、日本の四季の美しさを観せてもらえるだけで十分満足だったりします。

何てことの無い普遍的な光景であるはずなのに涙が流れっぱなし。
それぐらいに心を打つ美しい風景を描けるのは監督の技量なのでしょう。


あと劇中に出てくるご飯がホント美味しそう。

ユネスコ無形文化遺産に登録されたぐらいですからね。
やっぱ和食を美味しそうに描いてくれるとポイント大きいです。


そして、日々を丁寧に暮らす四姉妹と、四姉妹と繋がる人々。

キャスティングはピカイチ。
天然キャラのイメージが強い綾瀬はるかを始め、四姉妹はみんな最高でした。
個人的には、具体的に多くを語らぬ三女(夏帆)のキャラ設定が想像を膨らませられて好きでした。

脇も全くの隙間無くガッチガチに固められてます。
四姉妹が揃った絵ヂカラも凄いですが、全体的にかなり豪華なキャスティングです。


仕事や家事に追われると、日々の暮らしって雑になりがちですよね。

梅酒を漬ける梅仕事に代表されるような、劇中で繰り広げられる季節に合わせた丁寧な暮らしぶりは、観ていてとても心地良く刺激的でした。


例えば、経済的に困窮してたり、家族間での問題があったり、障害を抱えていたり。
自分の境遇と比べて恵まれていない人々のエピソードを目にすることで「こんな辛い思いしてる人もいるんだから自分はマシ」だと、目線を下げることで気持ちを前向きにすることが大嫌いです。
そうすることで自身の優位性を保つような行為には憎悪すら抱きます。

きっとそれって人間が根本的に持つ悪意なのだと思います。
不幸をウリにしたりチャリティしたりと、そんなテレビ番組って多いですものね。

かと言って、裕福で贅沢な暮らしを目線を上げて見たところで「あんな豪邸に住めて羨ましいなぁ」で終わりです。
自分の生活に比べてリアリティが無いので何も心に残りません。


そうではなくて、普通の暮らし(普通の定義はともかく)を見せられる中から自身を顧みて、改善すべきポイントに気付かされたり気持ちを前向きにしてもらえるような提示のされ方が好きです。

決して、劇中の四姉妹は不幸要素が無い家庭環境ではないんですが、そんな提示をしてくれる映画です。

親がいない状況で三姉妹が一緒に暮らしてて、そこに腹違いの四女が加わるわけなので、かなりレアな危なっかしい家庭環境です。

それでもテレビでありがちな、作為的に不幸をアピールするようなスタンスではないので、自身との境界線を強く意識するようなことは最後までありませんでした。


住む場所が鎌倉である必要は無く、一緒に暮らすのが四姉妹である必要もモチロン無く、いま一緒に過ごす人々との日々を季節を、丁寧に暮らすことが大事。

そんなことを改めて心の隅々にまで沁み渡らせてくれました。
もう1度映画館で観たいぐらいに気持ちの良い映画でしたが、DVDリリースされてからまた浸りたいと思います。

2015-08-18

Inside Out



ピート・ドクター監督「インサイド・ヘッド」


(※以下ネタバレ含みます)


「トイ・ストーリー」から続く流れがあるので、ピクサーの冠が付くだけでハードルが上がります。

ピクサーでなければそこそこ楽しめる中身だったとしても、ピクサーであれば許されないぐらいのハードルがあるわけです。
期待して面白くなかったら嫌だから期待しないようにしよう・・・と思ってても、心の奥底では期待が高まってしまう。


超えてきますね~。

ピクサー長編アニメーション20周年記念作品ということで気合いは入ってたでしょうが、こうも見事に超えてくると怖いぐらいです。
ピクサーの作品でこれぐらい圧倒されたのは「モンスターズ・インク」と「トイ・ストーリー3」以来ぐらいかも。
ホント素晴らしかった。


本編が終わって、エンドロールが流れて、お客さんが席を立ち、最後にボクも席を立ち、映画館を出てエレベーターに乗り、外に出てからも涙が止まりませんでした。

それぐらい上映中に嗚咽を堪えていたということ。

家でDVD観てるわけではないので、周りの人々の集中をそらしてしまうようなことは避けたい。
なので、幾度となく嗚咽しそうになっても、ただただ涙と鼻水を垂れ流しながら声が出ないよう堪えるわけ。
その押さえつけてた感情が、余韻と共にいつまでも収まらなかったということです。


吹替えキャストは今作でも抜群。
竹内結子も大竹しのぶもお見事でした。
そしてビンボンってアノ人(佐藤二朗)だったんですね。

キャラクターや舞台になる世界の設定、脚本の練られ度、細かい設定のディテール、後々に布石として効いてくる細かい前振りネタなど、お家芸とも言えるレベルの高い基本ベースは今作も健在。

一朝一夕で仕上げられるモノではないですからね。
圧倒的な才能が集結して、時間とお金を贅沢に使ってこそ仕上げられるモノです。

それだけのことが出来るのはディズニーというベースがあってこそだとは思いますが、お金や時間や才能だけではなく、ディズニーに息づく精神があってのことだと思います。


「盗作だ~」なんて一部のメディアが騒いでた「脳内ポイズンベリー」という作品があるように、感情を具現化して物語を紡ぐという方式は、新鮮でこそあれソコだけで作品が上物として完結するほどのプロットではないと思います。
下手すると難解になりかねません。

脳内世界の細かくワクワクさせられるディテールがあって、それぞれの感情の個性が際立ってて、そこから展開するストーリーは子供にもわかりやすく楽しめて、一緒に来た親のハートをガンガンに打つという。
さすがピクサーという設定の活かし具合でした。


もうビンボンのくだりなんて、ある程度の展開が読めてきてても涙腺は大崩壊ですよ。
忘れてしまうということの悲しさを否定的に提示しておいて、それは成長過程として大切なことなのだと肯定的に転ずる流れなんてお見事。

自分と照らし合わせウンウン唸って納得せざるを得ないのと同時に、自分の子供も同じように忘れていくのだという悲しさと、それが成長するということなのだと、喜ぶべきことなのだと自分をたしなめるジレンマで、ギュンギュンと胸が締め付けられる。
もう次から次に溢れてくる涙が渇く暇がありません。
鼻水なんて顎の下まで垂れ下がる始末です。


笑わせるところもしっかり笑わせてもらいました。

ライリー(主人公)以外の登場人物の頭の中の感情のやり取りは、スゴく良いアクセントになってます。
食卓を挟んだパパとママのやり取りのところとか最高だし、エンドロールのやつも面白かったですね。


一見ポジティブで圧倒的必要性を肯定的にとらえがちな「ヨロコビ」ですら「楽しけりゃいいじゃん」というKYで無責任な側面を覗かせ始め、「ヨロコビだけでは幸せになれないのではないか・・・」という疑問を抱かせつつ、その逆に何故に存在するのかさえ見えてこない「カナシミ」の存在意義が同時進行でフェードインしてくる。

ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、カナシミという5つの感情だけでは説明のつかない感情を伴う思い出、そして両親の前で全てを吐き出した時に、胸に抱かれながら涙を伴い溢れだした感情。

「カナシミ」をきっかけとして他の感情によって生まれる「ヨロコビ」とはまた別のポジティブな感情(成長)や、5つの感情それぞれ単独のバトンリレーだけでは、心豊かに生きるも成長することも出来ないという終盤の展開には、悲しく辛い時は視野が狭くなって気付かないかもしれないけど、そんな時こそすぐ近くにその感情を昇華してくれる人がいるかもしれないという、自分を取り巻く周りの人々とリンクすることによって豊かになるであろう自分自身の人生を照らし合わせて、ホント心が温かく満たされました。


もう大絶賛なんですが、唯一残念だったのが・・・
誰もが戸惑ったであろう、あの誰トクな本編前のドリカムPV流し。

いつから始まったのやら“日本版主題歌”という無理やりに定義されたシステム自体が苦手で、映画自体を純粋に楽しみたい気持ちを毎回削がれつつも、さすがに最近は慣れてスルー出来るようにはなりました。

それでも今回の作為的なPV流しはあまりにも・・・。

本編を楽しみにワクワクしながら映画館へ足を運んだ人々を戸惑わせ、アガってた気持ちを下げるという・・・日本のディズニーはどのような大人の事情があって、ああいうことをやってしまったんだろう・・・。

ドリカムのファンですら戸惑ったと思います。
怒りの矛先がドリカムに向くようなことも無くは無いと思うので、結局のところ誰も得しないんですよね。

批判は多かったでしょうから、以後二度とやらないとは思いますが、本国のディズニーがよくOKしましたね。